どんぶり会計β版

どんぶり会計β版のブログ

【トピック】 終わらない東芝の問題

2016年12月27日にマスコミ各社が「減損が数千億円にのぼる可能性がある」と報道した。東芝は、不正会計に続き、またしても会社経営を揺るがす大きな問題を公表した。この公表に関する報道があった日とその翌日の二日間で株価は急落しおよそ5,600億円もの時価総額が消滅した。そして、2017年1月10日の今日、銀行に対して支援継続要請のための説明会を開く。東芝の問題はまだ終わっていない。

 

一連の不正会計問題で東芝の有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令の額が過去最高の73億円と金融庁が決定したのは、この1年前の2015年12月25日である。この問題で東芝は利害関係のない第三者による委員会を設置して調査を行った。その調査報告書が東芝のホームページで公表されている。

 

東芝の不正会計の第三者委員会報告書(以下、単に報告書とする)

 

報告書のグラフを引用して、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 太田教授が東芝の不正会計について指摘している記事がある。「東芝の社長は、利益が売上を超えても不正に気がつかなかったのか?」という指摘だ。

 

会計をほんの少しでもかじったことがあるならば、「利益が売上を上回る」ということはありえないとわかるはずだ。そんなことが東芝の会計処理ではまかり通っていた。

 

これだけひどい状態だったという報告書を見ると、この問題は社長だけの問題ではなくなる。社外取締役監査法人の会計士は何を見ていたのだろうか。本当に誰も不正会計に気付かなかったのだろうか。

 

東芝の2014年3月期の有価証券報告書のコーポレートガバナンスの章の中に、「社外取締役が当社の企業統治において果たす機能及び役割」という項がある。ここからの引用を下記に示す。

当社は、出身の各分野における幅広い実績と識見に基づき、当社の経営に対する適切な監督を行うことのできる人材を社外取締役として選任しています。伊丹敬之経営学の専門家、大学の組織運営者として、島内憲は外交官として、斎藤聖美ハーバード大学大学院において経営学修士(MBA)を取得するとともに、経営者として、それぞれの幅広い実績と識見に基づき、当社の経営に対する適切な監督を現に行っています。 

 

経営学の専門家は会計の基本を知らないのか。世界トップクラスのハーバード大学大学院経営学修士とは、その程度のものなのか。経営学修士(MBA)がむなしく響く。

 

報告書を詳しく見ると、東芝の監査がいかにひどいものだったか目を覆いたくなるほどの記述がある。2015年3月期の決算時に監査委員で指摘した人がいたのだ。下記は報告書の239~240ページの引用である。

 なお、島岡聖也監査委員は、第3四半期決算に先立つ2015年1月26日、久保誠監査委員会委員長に対し、2014年9月18日に開催された取締役会において決議されたPC事業再編の件の会計処理(この中に密かにODM部品の押し込みの減少に伴う損失計上が織り込まれていた)について不適切なものが含まれていないかどうか精査し、法律及び会計の専門家の意見を徴した上で、第3四半期の会計処理として問題ないことを確認してほしい旨を申し出た。しかし、久保誠監査委員会委員長は、当該申出を受け入れず、監査委員会が開催されることはなかった(なお、同年3月19日、島岡聖也監査委員は再度久保誠監査委員会委員長に対して同趣旨の申出を行っている。これに対しては、同年4月1日、前田恵造CFOから、PC事業再編の件の会計処理について不適切なものは含まれていない旨、Buy-Sellについては部品取引と完成品取引は独立した取引でありその会計処理は適正になされていた旨の回答がなされている。)。

 さらに、島岡聖也監査委員は、4月6日、久保誠監査委員会委員長らに対して、上記と同趣旨の申出を行っているところ、今ごろ事を荒立てると決算に間に合わなくなって最悪の事態になる等の意見が述べられ、具体的に同時点において何らかの対応がとられることはなかった。 

 

監査委員会委員長らが「事を荒立てる」という認識がありながら精査しようとしていない。この報告書を見ると、まったく監査委員会が機能していないことが伺える。監査委員会委員長の久保誠氏は、略歴を見てわかるように、東芝幹部の人間である。不正会計は東芝幹部によって行われたものであることを考えると、そもそも中立的に内部監査ができる体制ではなかったのである。

 

東芝のガバナンスは、2008年~2014年という長きの間、腐敗していた。2011年3月期の当期純利益の水増しは本来31億円とするものを700億とするという、とんでもないものである。この腐敗が一朝一夕に改善されるとは到底思えない。

 

金融庁から東芝への課徴金納付命令が73億円と過去最高の額になった。東芝は、これを受けて元役員らに32億円もの損害賠償請求訴訟を行っている。日本では会社から直接役員個人に対してこれほど巨額の賠償請求が行われる例はあまりない。

 

この問題は東芝やその役員だけの問題ではない。金融庁新日本有限責任監査法人にも21億円という課徴金納付命令を出している。

 

そして、過去の話ではなく、問題は現在進行形である。冒頭に挙げた東芝が発表した減損に関するリスクは、1年前にマスコミから指摘されていること(「ウェスチングハウス買収が東芝不正の最大要因だ毎日新聞)であり、発表が遅すぎる。

 

東芝という日本有数の大企業の会計処理がこの状態では、日本市場全体の透明性を疑われても仕方がない。不正が行われた間の役員たちが行った間違った意思決定を事実として真正面から向き合い、新たな意思決定をして正すことでしか膿を出し切ることはできない。